Last Modified on Sep. 4, 2006.
非平衡量子物理学の開拓

研究目的・目標
  核融合研ではエネルギー変換の基礎研究として、常温付近の半導体(古典力学系)で温度勾配による輸送現象(熱電効果)を研究してきた。この現象を低温にすると、量子力学的効果を考慮しなければならない。しかし従来の物理学では、温度勾配による量子輸送現象は全くと言っていいほど研究されていない。電場による量子輸送現象の研究がほとんどである。

 そこで、本プロジェクトでは、従来の物理学における未開の領域として、温度勾配が引き起こす熱流による新しい量子輸送現象(熱量子効果)を解明し、それによって非平衡量子物理学という新分野を切り開くことを研究目的とする。

 具体的な研究目標として、以下の3点を掲げる。

1. 新しい熱量子効果現象の理論・シミュレーションからの予言

2. 古典輸送現象から量子輸送現象への遷移過程の解明

3. 実験による熱量子効果現象の実証確認

研究概要

研究目標で掲げたテーマを実現すべく、核融合研(中村・藤堂・大谷)グループによるプラズマ古典系輸送現象のマクロスコピック・シミュレーションと、分子研(米満・山下)グループで精力的に行ってきたミクロスコピックな観点を基盤とする量子物性理論という、2つの異分野間の連携・融合を進める。この自然科学研究機構の両グループが中心となり、北大・東大・埼玉大・横国大との共同研究体制を立ち上げる。本研究体制で、非平衡量子物理学という新分野開拓のための拠点形成を目指す。

以下、三点の研究目標についての研究概要を示す。

1. 新しい熱量子効果現象の理論・シミュレーションからの予言

最近理論的に予言した熱量子効果のひとつである「量子ネルンスト効果」の存在をシミュレーションによって確認する。これは量子ホール効果の起こる領域において、試料の左右に電位差ではなく温度差をつけると、磁場中で試料の上下に量子化された電位差が発生する現象である。この量子ネルンスト効果や、その逆効果である量子エッティングハウゼン効果について理論検討・シミュレーション行う。さらに別の相互作用系での熱量子効果についても調べていく。(核融合研グループがシミュレーションを、分子研・東大グループが理論研究を主に行う。)

2. 古典輸送現象から量子輸送現象への遷移過程の解明

常温付近での固体中の熱流・粒子流の輸送現象は、伝導粒子の散乱が強いため、電子集団としてのマクロ・スケールでの流れ(弱電離プラズマ流体)として記述できる。一方、この系を極低温にすると散乱が抑制され、ミクロ・スケールでの個々の粒子のもつ量子性が伝導現象を支配するようになる。中間温度領域では、ミクロとマクロの両スケールの異なるメカニズムが競合し、系の輸送現象を支配する。この中間領域での輸送現象をシミュレーションにより調べ、非平衡古典物理から非平衡量子物理への遷移について知見を得る。
(核融合研・横国大グループが中心にシミュレーションを行う。)

3. 実験による熱量子効果現象の実証確認

理論により予言した「量子ネルンスト効果」の実証実験計画を立てる。量子ホール効果で使われる試料および実験装置を改良し、極低温・強磁場・温度勾配を実現する。この際、理論・シミュレーションから温度などの実験パラメータを見積もる。実験結果を検討し、随時理論モデルの改良を行う。
(
北大・埼玉大が実験を、分子研・東大グループが理論検討を行う。)


資料(関係者のみ)

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核融合科学研究所
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